【月間総括】「モンスターハンターライズ」の成功から見るカプコンの経営戦略 –

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 今月は,「モンスターハンターライズ」(以下,ライズ)の話をしたい。ライズはカプコンから発表があったように,発売から3日で400万本,10日で500万本の売上となった。
 これは,初動が「MONSTER HUNTER: WORLD」(以下,WORLD)を下回ったものの,その後1週間の動きは,WORLDを上回る推移である。

 カプコンは,ライズの初動が想定を上回ったというニュアンスの話をしていたので,かなり好調と言ってよいだろう。初動がWORLDを下回ったのは,ゲームカードの供給が少なすぎたことが要因と私はみている。これはリードタイムが光ディスクより長いこともあるが,Switchは基本戦略からやや外れたゲーム機であり,本数がPS4より少なくなると見積もっていたためだろう。カプコンの基本戦略は,コアゲーマーが多いと思われている4K対応のゲーム機に大型タイトルを投入することで販売本数を伸ばすというものなので,それも仕方ない。

 エース経済研究所が提唱する“形仮説”ではゲーム機の販売数はデザインとスタイルで決まるとしており,Switchはゲーム機らしいデザイン,家でも外出先でも遊べるスタイルが受け入られたと考えており,本体が売れている状況なので,ライズがWORLD同様にヒットしたのは当然のことだろう。

 また,パッケージでないと購入をためらう層がいるのも事実である。コアゲーマーの間ではダウンロード版を購入することはかなり増えてきており,便利で利益率の高いダウンロード版を当たり前のように感じている投資家も多いため,無理からぬことだと思うが,実際には,形あるパッケージをコレクションしたい需要も一定数ある。さらに,故・岩田 聡氏は,「人々の購買行動は簡単に変わらない。デジタル化には相当の時間を要するだろう」とコメントしていた。本連載で指摘したことがあるが,テクノロジーが一夜にして人々の行動を変えるというのはそうそう起こるものではない。10年かそれ以上かけて徐々に変わっていくものであろう。

 ちなみにエース経済研究所は,2030年ごろまでに日本のアニメが世界を席巻すると予測している。これも長期的な嗜好の変化や,世代交代を考慮したものである。多くの人は,今の状況がずっと続くと考えがちだが,人々は活発に行動しており,どんどん変化していく。ソニーグループの孫会社アニプレックスが次第に世界で評価を上げていくと考えているのも,この予測に基づくわけだ。行動の変化を予測することは,非常に有益だと考えている。

 話を戻そう。カプコンの事業計画が慎重だったのは,4K非対応のSwitchだけでは,PS4の実績を上回ることができないと見ていたためだと思う。しかし,現実に起こったことは,逆だといっていいだろう。最終的にはどうなるかは分からないが,ライズはそれなりの本数が期待できそうである。

 カプコンは,ゲーム開発に対して正社員登用中心で,開発も大阪が大半。海外拠点を持たない経営に変えてきた。このほうが品質のばらつきが出にくく,管理もしやすいからだろう。ゲーム開発は,初期とピークで必要な人数の差が大きい。このため,非正規雇用が多くなりがちである。また,テクスチャやモデリング制作,アニメーションの現場は,プロジェクトごとに人が入れ替わるのが当たり前と伺っているので組織に知見が残りにくい。だが,雇用を安定させておけば,経験も継承されやすく,高品質のものが生まれやすくなるわけだ。

 カプコンは以前海外に開発拠点を持っており,人気タイトルもあったが大阪からではコントロールがしにくく,損失を出したことを反省したと説明していた。これはとても大事なことで,失敗から反省して次の対応ができる組織は多くない。
 とくに日本では失敗は認めるのではなく水に流す傾向が強い。不要としか思えないほど多数の稟議による裁可が必要で意思決定が遅いのも,失敗を認められない日本固有の風土に一因があると考えている。
 カプコンが多数のヒット作を出せているのは,反省と改革が適切に行われているからだとエース経済研究所では考えており,当分この状況は続くだろう。

カプコンの売上高と営業利益の推移

出典:決算短信より エース経済研究所

 次に先ほども触れたエース経済研究所が提唱している“形仮説”の話をしたい。ここ25年の動向を見る限り,ゲーム機の趨勢は発売前には決まっている可能性が高い。少なくとも国内において,

(1)ゲーム機そのもののデザインとプレイスタイルで販売の趨勢が決まる
(2)最初の2週間で45万台程度の販売が必要
(3)トレンド転換は軽薄短小化と相関性があるように見える

 という3点が重要だ。デザインについては以前話した通りなので今回は割愛するが,この20年で据え置きゲーム機のスタイルに強く影響したのは,おそらく単身者のテレビ保有率低下であろう。

単身世帯の29歳以下,30代,40代のテレビ普及率 出典:内閣府資料

出典:国土交通省資料

 上図は,左側が内閣府,右側が国土交通省のデータを元にエース経済研究所が作成したものである。単身世帯のテレビ保有率は,上下する傾向にあるものの少しずつ下がっているように見える。とくに2020年,2021年と30代のテレビ普及率は一段と下がっていて,30代単身世帯の実に1/4がテレビを保有していない。

 これは,スマホやタブレット端末の普及といったことも要因の一つだろう。また,国土交通省のグラフからは40代までは居住面積が狭いことも分かる。ゲーム機の販売に対する影響は,AAAと呼ばれる大作ソフトよりも,ライフスタイルの変化のほうがマクロ的には大きいと,“形仮説”からエース経済研究所では考えている。

 以上の点を考えると,トップ30位にほとんどソフトがランクインしないにもかかわらず,ハードが売り切れるほどPS5が人気になるという奇妙な状況も分かる気がする。コロナ禍で家にいることが多くなった新しいライフスタイルのなかで,品薄が報じられ,希少性の高いアイテムを保有したいと言うことなのだろう。

 あるゲーム会社の社長が以前,スマートフォンゲームと違いゲームソフトは買った時点でクリアととらえる人がいると語っていた。これと同じように,希少性の高いPS5を買った時点で満足してしまったという人も一定数いるのかもしれない。